自然界を陰陽で分けると陰は大地であり、またそれを潤す水です。陽は太陽であり、その熱で陰である水を温め気化した水蒸気は大地を温めます。温められた大地から草木は水と養分を吸収して光合成により成長し、炭酸ガスを吸収して酸素を放出します。気化した水蒸気は大気を暖め空に昇り、冷やされて雲となり、雨になって地上に降り注ぎます。こうして自然界では、太陽の熱エネルギーによる循環が繰り返されています。自然界の陰陽のバランスが崩れると洪水や干ばつが現れます。自然の一部である人間も陰と陽で作られ、陰陽のバランスが体調の変化として現れます。生体内において陽の尺度は熱で「寒・熱」で現し、陰の尺度は水で「燥・湿」で現します。 また私達の体も自然の一部と考えれば、心臓と肝臓は陽の臓器で心臓は最も熱い臓器です。※脾臓と腎臓は陰の臓器です。肺は陽中の陰の臓器で心臓と協力して各臓器の橋渡しを行います。太陽は心臓、水は腎臓、大地は脾臓、草木は肝臓、雲は肺に例えられます。心臓は腎臓を温め、更に腎臓は脾臓を温め、脾臓は栄養を化成して肝臓に送り、肝臓は栄養とエネルギーの量を調整しながら肺に送り、肺は酸素を取り込んで血液を作り全身に行き渡らせます。
※脾臓は膵臓を含めた門脈系臓器と考えます。漢方ではそれぞれの臓器を肝・心・脾・肺・腎で表し、現代医学の臓器とは少し意味合いが違います。
先人たちは、自然界には五つの基本物質である「木」「火」「土」「金」「水」が存在すると考えました。それを人体に当てはめ、土は食物から栄養分を吸収する消化器系の「脾」、木は栄養分を肺に送る「肝」、金は肝から受け取った血液成分と酸素から血を作る「肺」、火は血を全身に送る「心」、水は全身の水分代謝と成長にかかわる「腎」に当てはめ「五臓」としました。そしてこれらの臓器が互いに影響し合って健康のバランスを保っていると考えました。
心(送電・変電装置):電熱で蒸気発生器を温める
腎(蒸気発生器):蒸気でガス発生器の燃料を加熱する
脾(ガス発生器):燃料をガスと不純物に分ける
肝(ガス精製・配電装置):ガスの精製と水素ガス量をコントロールする
肺(ガス発電装置):水素と酸素で電気を発生させ、水は蒸気発生器に戻す
腎(蒸気発生器):変電装置の電圧上昇を抑制
心(送電・変電装置):ガス発電装置の温度低下を抑制
肺(ガス発電装置):配電装置の電流を抑制
肝(ガス精製・配電装置):ガス発生器のガス停滞を抑制
脾(ガス発生器):蒸気発生器の水量を抑制
肝(ガス精製・配電装置):変電装置の電圧を上げる
心(送電・変電装置):ガス発生器の温度を上げる
脾(ガス発生器):ガス発電装置のガス量を上げる
肺(ガス発電装置):蒸気発生器の水量を上げる
腎(蒸気発生器):充電装置で配電装置の電流を上げる
心:心陽は腎陽を温める
腎:腎陽は脾気の働きを促進させる
脾:脾は水穀の精を肝へ送り気血化生を行う
肝:肝は肺と共同して気の昇降を行う
肺:肺は清気を血に収め全身に循環し、一部の津液は諸臓器に戻される
腎:腎陰は心火の亢進を抑制する
心:心火は肺に寒邪が停滞するのを抑制する
肺:肺は粛降により肝の亢進を抑制する
肝:肝は脾に湿邪が停滞するのを抑制する
脾:脾は運化により腎水の氾濫を抑制する
肝;肝の蔵血・調節機能が心の循環機能を活性化する
心:心の温煦機能が脾の消化吸収機能を活性化する
脾:脾による肺気の補益が肺の機能を活性化する
肺:肺の津液の粛降が腎を潤し腎の機能を活性化する
腎:腎の腎精が肝を滋養し肝の機能を活性化する
五臓とは肝・心・脾・肺・腎を指し、肝は胆と心は小腸と脾は胃と肺は大腸と腎は膀胱と深い関係があります。肝・心・脾・肺・腎は現代医学のそれとは少し意味合いがずれた部分もあります。
五臓とは肝・心・脾・肺・腎を指し、肝は胆と心は小腸と脾は胃と肺は大腸と腎は膀胱と深い関係があります。肝・心・脾・肺・腎は現代医学のそれとは少し意味合いがずれた部分もあります。
心は血液を循環させる働きと意思や思考の働きを併せ持ちすべての臓器の司令塔の役割をします。心は陽の勢いが強く、体を温めすべての各臓器に栄養を届けます。心は顔と舌に関係が深く精神状態は表情や言葉に現れ、心の病変は舌に反映され、五味の刺激も必ず心に反映されます。また、心の不調は血虚、陰虚または気虚、陽虚となって現れます。また、実タイプで身体に熱がこもると実熱となって現れます。
腎は不要物の排泄だけでなく、人の成長や生命の維持に深く関わっています。また両親から受け継いだ先天の精は食物から変化した後天の精と合わさり補充され腎精として貯蔵され、生殖に関わり骨や歯、脳の働きを維持します。腎には津液を蓄えた腎陰と心により温められた熱源である腎陽が存在します。腎陰は腎陽により温められ、脾に送られます。腎は髪と耳、泌尿生殖器に関係が深く腎気が衰えると脱毛や難聴が現れます。また、腎の不調は陰虚または陽虚となって現れます。また、水分代謝異状は痰湿となって現れます。
脾は栄養の吸収を行います。脾は食物から取り出した後天の精を各臓器に送り届ける本となり、各臓器の先天の精と結びついて臓器の働きを維持します。また脾は血液が血管内をスムーズに流れ、血管外に漏れだすのを防ぐ統血作用を担っています。脾は皮肉と唇に関係が深く、栄養状態は外見や唇に、味覚異常が口中に現れます。また、脾の不調は気虚、陽虚または食積、不統血となって現れます。また、腸内環境の悪化は瘀血の原因になります。
肝は自律神経と関係があり各臓器の血流量を調節し、肺と共同して気の昇降を行います。また感情の調節も行い、筋肉、爪と目に関係が深く、肝の栄養状態は四肢の動き、爪の艶、視力に現れます。肝の不調は血虚、陰虚となって現れます。また、気の滞りは気滞となって現れます。
肺は呼吸により体内に酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出します。肺は過剰な気や津液を上向き・外向きへ発散する宣散作用と、これとは逆に下向き・内向きに働く粛降作用があります。また肺には病原体から身を守る免疫機能があります。肺は鼻と皮膚・皮毛に関係が深く発汗・体温調節も行います。肺の不調は気虚または陰虚となって現れます。また、免疫機能の不調はアレルギー症状となって現れます。
先人たちは人の精神神経活動を次のように表現しています。「生命の原始物質を精と言う、両精が結合し形成される生命を神と言う、神に随い往来するものを魂と言う、精と同時に出入りするものを魄と言う、事物を支配する機能を主宰するものを心と言う、心中で思考することを意と言い、その思考を決定することを志と言う」と言っています。神とは人の生命活動を支える大切なもので「魂」「魄」「意」「志」「神」を五神と言い、これらの背後により根本的な「精」があります。「魂」は神に同調し反応が素早く、睡眠・夢と密接な関係があり、夜になると魂は肝に帰って寝ますが、肝血が不足すると魂が不安定になり夢を多く見ます。「魄」は本能的活動・感覚に関わり生理調整機能として働きます。神が外的刺激を感知すると「意」は思考し、「志」はそれらを記憶集中し、精神機能を高めます。「神」は意と志の内容から本質を見出し決定し、高度な精神活動を有し言語活動に深く関係します。「精」はすべての基礎物質であり、精が充実すれば精神も充実します。これらを陰陽で対比すると意・魂・神は陽で「知」としての性格が強く、志・魄・精は陰で「身体」としての性格が強く現れます。五神の働きにより神は本質を見いだし、心が精神と感情(五志)をコントロールすることにより、人は生き生きと自己を表現することが出来るのです。他者と感情を共有する共感も心の働きによります。
<memo>
フロイトは人間の心の階層構造のあり方を自我と超自我とエス(イド)と呼ばれる三つの心の領域でとらえています。
エス(イド)とは、「~が欲しい」「~したい」といった人間の※心の奥底に存在する本能的欲求や衝動的欲求を司る領域です。
超自我とは、「~すべきだ」「~してはならない」といった人間の行動を規制する道徳や社会的規範を体現する理性を司る領域です。
自我とは、エスに対する超自我における様々な心の葛藤を統制をして、行動を決定する心の中心的な部分を司る領域です。
※東洋医学的に考えると、エスの心の奥底を「五臓」と超自我を「神」と自我を「心」と読み替えることも出来ます。
人間は自己の欲求を実現するために思い悩み、欲求が客観的事実として現実されると喜ぶ。また次の瞬間いま得た物を失う恐れが現れる。そして得た物を失うと悲しみに襲われる。続いて奪った者への怒りがこみ上げてくる。しかし、これでは欲求を満たせば常に恐れや憂いに苛まれることになってしまいます。ではどうすれば良いのでしょうか、人間は昔から少ない食べ物をコミニュティで分けあって生きて来たのです。喜びを共感することで恐怖を回避して争いを避けてきたのです。共感こそが人間にとって真の喜びなのです。
ケーキが食べたい(欲求)
ケーキ屋さんでお手伝いをすればケーキがもらえるかも!
意 → 脾 → 思い
↓
ご褒美にケーキをもらった
神 → 心 → 喜び
↓
兄弟に取られる恐れがあるから戸棚に隠した
志 → 腎 → 恐れ
↓
戸棚のケーキが消えている
魄 → 肺 → 憂い
↓
兄弟たちが隠れてケーキを食べている
魂 → 肝 → 怒り
↓
兄弟げんかが始まる
END
※ 「心」が五臓、五神、五志をコントロールすることで初めて自己を生き生きと表現できるのである。
※ 「神」は外的刺激を受けて様々な機能活動を生じ、その結果、「神」は内(五臓)に働き、五志(感情)は外に現れる。五臓の虚実盛衰は外的刺激に対して敏感になる。自己の欲求を実現するために「意」は思考して脾に働き、脾気が衰弱すると思い悩む感情が現れる。欲求が実現すれば「神」は意と志の内容から本質を見出し客観的事実として心に働き、血脈の旺盛から喜びの感情が現れる。もし、欲求が実現しなければ血脈が衰弱し、同時に肺気も衰弱して憂いの感情が現れる。欲求が満たされると次の瞬間に「志」は記憶、執着して腎に働き、精気が衰弱すると得た物を失う恐れの感情が現れる。大切な物を失うと「魄」は肺に働き、肺気が衰弱すると憂い悲しみの感情が現れる。また悲しみの対象を見失うと、肺気が滞り閉塞感を伴う呼吸困難が現れる。自己の欲求を奪い脅かす者を見つけると「魂」は肝に働き、気血が上逆すると怒りの感情が現れる。また、肝気が虚すると肝腎同源の関係の腎の精気も衰弱し恐れの感情が現れる。
※ 五志とは客観的事実と自己の欲求との関係の反映であり、臓腑機能活動の表現形式である。
※ 情志活動は人心の自然の働きであり、精神的刺激も適度であれば人を傷めることはない。
<memo>
「神」の漢字は神様と勘違いされますが、中医学では「しん」と読み、人の精神を現します。精神は五神により表現され、「しん・神」「こん・魂」「はく・魄」「い・意」「し・志」で現します。日本語の意味と混同すると幽霊のようなつかみ所のない物になるなってしまいます。
「思」の漢字は田と心が合わさった漢字ですが、「田」は田んぼでなく脳みそを上から見た象形文字だそうです。「思」の意味は「脳」と「こころ」が相談し合っている象形文字だそうです。人の体は脳(精神)とこころ(感情)が共感して初めて健康な身体を維持できるのです。
五臓は「血・脈・営・気・精」と「魂・神・意・魄・志」を蔵しそれぞれ密接に関係し、異なる精神と感情を発現します。
「肝」は「血」と「魂」を蔵する
「魂」の精神活動は「血」によって営まれる
「魂」は反応が早く「神」に同調している
「魂」は睡眠、夢と密接な関係がある
「怒」は「血」の盛衰により起こる
過度の「怒」は肝を傷つける
「心」は※「脈」と「神」を蔵する
「神」の精神活動は「脈」によって営まれる
「神」は全ての精神活動を統括し、外的刺激は「心」を経由して五臓に伝わる
「神」は言語活動と密接な関係がある
「喜」は「脈」の盛衰により起こる
過度の「喜」は心を傷つける
「脾」は「営」と「意」を蔵する
「意」の精神活動は「営」によって営まれる
「意」とは心中で思考することを言う
「意」とは一時的な記憶能力を言う
「思」は「営」の盛衰により起こる
過度の「思」は脾を傷つける
「肺」は「気」と「魄」を蔵する
「魄」の精神活動は「気」(衛気)によって営まれる
「魄」は本能的活動・感覚と関係がある
「魄」は生理調節機能と関係がある
「憂」は「気」の盛衰により起こる
過度の「憂」は肺を傷つける
「腎」は「精」と「志」を蔵する
「志」の精神活動は「精」によって営まれる
「志」とは心中で思考を決定することを言う
「志」とは記憶能力と心理活動の集中を言う
「恐」は「精」の盛衰により起こる
過度の「恐」は腎を傷つける
※ 脈を蔵するとは、心が血液の運行を管理することを言います。
※ これら「五神」全てが神の範中にあり神は身体機能を統括し他者との共感、自己の安定を保っている。
※ 自律神経系は感覚神経と連携して臓器を調整している。感覚神経の受容体が感知した情報が中枢にもたらされ、この情報に対して自律神経がフィードバックすることで臓器を制御している。
<memo>
神・魂・魄などと言うとオカルトと勘違いされますが、最新医学に照らし合わせた時、先人の洞察力に驚かされる事があります。五神について言えば意は大脳皮質の思考機能、志は大脳辺縁系海馬の記憶・整理機能、魂は自律神経の神経伝達機能、魄は体性神経と大脳辺縁系の本能・感覚・生理調整機能、神は視床下部の各機能の統括機能を示しています。
人の五感で視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の中で嗅覚だけは大脳皮質の思考のフィルターを通さず本能的行動を支配する大脳辺縁系に伝達されます。このことが香りの人への心理的治療効果の重要性を示しています。食材、生薬の香りが重要な役割を果たしていることが分かります。
精とは生命の根源であり、身体を構成する基礎物質です。精には両親から受け継いだ先天の精と脾で食物から生成された後天の精があります。身体を構成する基礎物質である精は、気・血・津液に転化し、神気を充実して生体に活力を与えます。
気とは生命活動を支えるエネルギー源であり、生体のあらゆるところに分布して生命活動や生理機能を推進します。気は後天の精と肺から取り入れた清気より生成され、宗気・営気・衛気を含みます。宗気は心肺機能を支え、営気は血液循環機能を支え、衛気は身体の防衛機能を支えます。
血とは血液で血管内を流れ全身に栄養と潤いを与え生体機能を正常に保ちます。血は肺で、後天の精から生成された津液と営気により生成されます。肺で生成された血は心に送られて全身を巡ります。
津液とは血以外の水分で、この水分を媒体として気の働きと血の働きを支えています。脾で生成された津液は肺に送られ宣散と粛降により全身を巡ります。
先人たちは病気をもたらす要因を「邪」と考えました。私たちの周りには様々な「邪」が存在します、それに対して私たちの体には「邪」と戦う正気が存在します。五臓が正常に働き正気が「邪」より強ければ病気になりません。しかし正気が正常でもこれら「邪」の勢力が上回れば五臓がうまく機能しなくなります。この状態を実と言い「邪」に対する生体反応が体調の変化として現れます。
実証とは、邪の勢いが正気(生命力・抵抗力)に対して強い状態や、何かが過剰になった状態を言います。
生体を取り巻く自然現象として寒さ、暑さ、湿気、乾燥、そして風などがあります。正気(生命力・抵抗力)が相対的に弱いと、これら自然現象が生体に取り付き病気を引き起こします。春には風邪、夏には暑邪、雨期には湿邪、秋には燥邪、冬には寒邪が生体に取り付き正気が弱いと病気を引き起こすことになります。かぜ・インフルエンザなども外界の邪と考えます。
※邪は季節に限り現れる訳ではありません、夏場の冷蔵庫内での仕事は寒邪にさらされることになります。カゼなどの疾患は寒邪と風邪が合わさって現れることもあります。
「邪」の原因として五志(喜、怒、憂、思、恐)の激情があります。それは対応する五臓(心・肝・肺・脾・腎)に悪影響を与えます。精神的刺激はまず心に作用し、心神の調節を通して五臓に変動を与え、情志の変動は五志として現れます。これらはすべて心神により生理活動と心理活動が統合されています。また過食・偏食は気、血、水(津液)バランスを崩し、過労・運動不足は気の消耗や気血の滞りにつながります。その結果、気の滞り(気滞)血の滞り(瘀血)飲食物の滞り(食積)水分の滞り(痰湿)熱のこもり(実熱)が邪となり病気を引き起こす原因になります。
外傷や火傷、害虫などで体が傷つくことも邪となります。
気滞とは生体のエネルギーである気が滞った状態で、ストレスなど情志の変動により肝の疏泄機能の停滞によって引き起こされます。原因になっているストレス・運動不足を改善し、気の巡りを良くする理気の効能のある食材や生薬の摂取が有効です。
◎気滞症状:うつ病・自律神経失調症・生理痛・神経痛・頭痛・便秘
瘀血とは血液の循環が停滞した状態で、血の流れをコントロールする脾の統血作用の不調による血行障害で引き起こされます。また腸内環境の悪化も瘀血の原因になり、血液の質が悪くなる状態です。生活環境や食習慣またストレスも瘀血の原因になりますので、それらを改善し、血の巡りを良くする活血・化瘀の効能のある食材や生薬の摂取が有効です。
◎瘀血症状:生理不順・不妊症・脳梗塞・心筋梗塞・神経痛・静脈瘤・便秘・痔
食積(しょくしゃく)とは消化不良の状態で、食べ過ぎなどの不摂生が続くと食べ物の消化吸収がうまく行われずに消化管に停滞し、積もって消化不良を引き起こします。食生活を改善し消積・消食の効能のある食材や生薬の摂取が有効です。
◎食積症状:腹痛・便秘及び下痢・食欲不振・げっぷ・胸焼け・口臭
痰湿とは津液の代謝異常で、痰湿が発生した部位の血液や気の流れを阻害し疾病を引き起こします。脾と腎さらに水を腎に降ろす肺の働きが重要になります。水分の摂り過ぎや運動不足も原因にになりますので、それらを改善し、滞った津液を取り除く利水・化痰の効能のある食材や生薬の摂取が有効です。
◎痰湿症状:、アレルギー性鼻炎・アトピー・喘息・高血圧(拡張期)・浮腫・帯状疱疹・じんましん・緑内障・メニエル・関節リウマチ・慢性関節炎
実熱とは生体の熱生成が過剰な状態です。肝と心の働きのコントロールが重要になります。
実タイプで酒・油物・甘い物・辛い物をとり過ぎると熱が体内にこもり実熱の状態を引き越します。原因となっている食生活を改善し、清熱の効能のある食材や生薬の摂取が有効です。
◎実熱症状:蓄膿症・中耳炎・ニキビ・脂漏性湿疹・肝炎・膵炎・大腸炎・糖尿病・高脂血症・高血圧
虚証とは、正気(生命力・抵抗力)が低下した状態や、何かが不足した状態を言います。また虚証に「邪」が取り付いた状態を虚実錯雑証と言います。
活力が低下したエネルギー不足の状態です。活力を増強するには脾・肺・心の補気が必要ですが、特に後天の気を作る脾が重要になります。気虚として次のような症状が現れます。
◎脾気不足:疲労・虚弱・食欲不振・軟便・下痢または便秘・浮腫・肥満・子宮脱・脱肛・麻痺
◎肺気不足:息切れ・声に力がない・自汗・風邪をひきやすい・水様の痰を伴う慢性咳嗽
◎心気不足:動悸・多夢・睡眠障害・健忘・煩躁
気虚がひどくなり寒証が加わると陽虚になります。特に腎と脾が重要で、腎・脾・心の補陽が必要です。陽虚として次のような症状が現れます。
◎腎陽不足:性欲減退・遺精・帯下・頻尿・尿漏れ・不妊症・足腰の冷え
◎脾陽不足:むくみ・早朝の下痢・便に未消化物が残る
◎心陽不足:顔面蒼白・手足の冷え・倦怠感・睡眠障害・自汗・息切れ
血虚とは生体に栄養を補給する血が不足したり、供給不足、利用効率の低下した状態です。特に血と深い関係の肝が重要で、補血が必要です。血虚として次のような症状が現れます。
◎肝血不足:めまい・耳鳴り・夜盲症・多夢・睡眠障害・生理不順・慢性肝炎・顔・爪の色が悪い・しびれ・足がつる
◎心血不足:顔面蒼白・めまい・動悸・多夢・睡眠障害・健忘
血虚がひどくなり津液が失われ、熱証が現れると陰虚になります。特に肝と心が重要で、補血・養心・補陰・生津が必要です。陰虚として次のような症状が現れます。
◎心陰不足:睡眠障害・不安・心煩・動悸・盗汗
◎肝陰不足:顔面紅潮・めまい・耳鳴り・高血圧・頭痛
◎腎陰不足:めまい・耳鳴り・遺精・早漏・流産・早産
◎肺陰不足:血痰・粘稠痰・盗汗・潮熱・口渇・声のかすれ
※ 異化と同化で考えると気虚・陽虚は異化作用<同化作用で異化作用が弱く冷えて太っていることが多く、血虚・陰虚は異化作用>同化作用で異化作用が強く熱証でやせています。但し、消費量以上にカロリーを摂取すれば太ってしまいます。
気虚は脾と関係が深く、脾気虚には補脾が重要になります。少食で全身倦怠感があり、補気と健脾の代表的な漢方薬に四君子湯:人参3;白朮3;茯苓4;甘草1;生姜0.5;大棗1 があります。
陽虚は脾と共に腎とも関係が深く補脾・補陽が重要になります。疲れやすく手足の冷えがあり、補気と補陽の代表的な漢方薬に人参湯:人参3;甘草3;白朮3;乾姜2 があります。
血虚は肝と関係が深く、肝血虚には補血・養肝が重要になります。めまい、立ちくらみに手足のしびれ感があり、自律神経とホルモンバランスを調える代表的な漢方薬に四物湯:当帰3;芍薬3;川芎3;地黄3 があります。
陰虚は肝と共に心とも関係が深く補血・養心が重要になります。ほほが赤く寝汗、不眠があり、神経症の代表的な漢方薬に酸棗仁湯:酸棗仁10;知母2;川芎2;茯苓2;甘草1 があります。
気滞は肝と関係が深く、気滞には理気が重要になります。ストレスから胸脇が張って痛み、腹満があり、気鬱の代表的な漢方薬に四逆散:柴胡2;芍薬2;枳実2;甘草1 があります。
実熱は肝と共に心とも関係が深く理気・清熱が重要になります。赤ら顔で目の充血があり、消炎と清熱の代表的な漢方薬に黄連解毒湯:黄連1.5;黄芩3;黄柏1.5;山梔子2 があります。
瘀血は脾と関係が深く、瘀血には化瘀が重要になります。鮫肌で舌下静脈の怒張があり、血行障害の代表的な漢方薬に桂枝茯苓丸:桂皮3;茯苓4;牡丹皮3;桃仁4;芍薬4 があります。
痰湿は脾と共に腎とも関係が深く化痰・利水が重要になります。消化管に水分が停滞する痰を取り去る化痰の代表的な漢方薬に二陳湯:半夏5;茯苓3.5;陳皮3.5;生姜1;甘草1があります。また尿量減少や口渇して身体のむくみがある水分代謝異常の代表的な漢方薬には五苓散:沢瀉4;猪苓3;茯苓3;白朮3;桂皮2 があります。
<memo>
四逆散の四逆とは四肢の冷えのことで陽気不足によるものと、陽気が裏に鬱滞して発散できないものとがあります。四逆散:柴胡2;芍薬2;枳実2;甘草1 は気の鬱滞を改善する漢方薬です。名前は似ていますが、四逆湯:甘草2;乾姜1.5;加工ブシ0.3 は陽気不足による四肢の冷えを改善する漢方薬です。
体質にはそれぞれ関係の深い臓器があり、上下に位置する体質どうしも深い関係にあります。また、その処方薬どうしにも関係が見られます。異なる体質が同時に存在する場合の処方薬も考えられています。またそれぞれの処方薬を合わせて使用する場合もあります。
血虚は肝と関係深く、代表的な処方薬に四物湯:当帰3;芍薬3;川芎3;地黄3があり、陰虚は肝・心と関係が深く、心陰虚には酸棗仁湯:酸棗仁10;知母2;川芎2;茯苓2;甘草1があります。心陰虚の症状に加えて血虚の症状が見られれば酸棗仁湯と合わせて四物湯を使用します。
気虚は脾と関係が深く、代表的な処方薬に四君子湯:人参3;白朮3;茯苓4;甘草1;生姜0.5;大棗1 があり、陽虚は脾・腎と関係が深く、人参湯:人参3;甘草3;白朮3;乾姜2 があります。人参湯は補陽効果を高める目的で生姜を乾姜に変え甘草を増量しています。
気滞は肝と関係が深く、代表的な処方薬に四逆散:柴胡2;芍薬2;枳実2;甘草1 があり、実熱は肝・心と関係が深く、黄連解毒湯:黄連1.5;黄芩3;黄柏1.5;山梔子2 があります。実熱の症状に加えて気滞の症状が見られれば黄連解毒湯と合わせて四逆散を使用します。
瘀血は脾と関係が深く、代表的な処方薬に桂枝茯苓丸:桂皮3;茯苓4;牡丹皮3;桃仁4;芍薬4 があります。痰湿は脾・腎と関係が深く、二陳湯:半夏5;茯苓3.5;陳皮3.5;生姜1;甘草1があり、利水には五苓散:沢瀉4;猪苓3;茯苓3;白朮3;桂皮2 があります。二陳湯と四君子湯が合わさると六君子湯になります。
風邪を引くと通常、咳・鼻水・発熱症状が現れます。これらの症状は肺との関係が深く、麻黄、桂皮を含む漢方薬が多く使われます。風邪によく使われる漢方処方に解表剤があります。解表とは体表の血管を拡張して発汗により体表の病邪を取り去ることを言います。代表的な処方薬として麻黄と桂枝を合わせて強く発汗させる麻黄湯と、桂枝で軽く発汗させる桂枝湯があります。夏カゼに多い発熱・喉の腫れ痛みには銀翹散が有効です。また、肩こりを伴う風邪には桂枝湯に麻黄と葛根を加えた葛根湯があります。喘息症状があれば麻黄に肺や気管支の熱を冷まし炎症を抑える石膏と鎮咳作用の杏仁に抗炎症作用の甘草を配合した麻杏甘石湯があります。こじれた風邪に桂枝湯に小柴胡湯を合わせた柴胡桂枝湯があります。この他にも気管支症状で湿った咳・鼻水には、小青竜湯が、乾いた咳には、麦門冬湯が使われます。麦門冬湯には麻黄も桂皮も含まれていませんが、気管支の炎症を抑え、水分分泌の回復を促すことにより乾いた咳を沈めます。
◎麻黄湯:麻黄3;桂皮2;杏仁4;甘草1
◎桂枝湯:桂皮3;芍薬3;大棗3;生姜1;甘草2
◎銀翹散:金銀花12;連翹12;桔梗6;甘草3;薄荷6;淡豆豉9;牛蒡子9;淡竹葉9;荊芥6;蘆根15
◎葛根湯:葛根4;麻黄3;大棗3;桂皮2;芍薬2;甘草2;生姜1
◎麻杏甘石湯:麻黄4;杏仁4;甘草2;石膏10
◎小柴胡湯:柴胡5;半夏3.5;生姜1;黄芩2.5;大棗2.5;人参2.5;甘草1
◎柴胡桂枝湯:柴胡4;半夏4;桂皮1.5;芍薬1.5;黄芩1.5;人参1.5;大棗1.5;甘草1;生姜1
◎小青竜湯:麻黄2;芍薬2;乾姜2;甘草2;桂皮2;細辛2;五味子1;半夏3
◎麦門冬湯:麦門冬8;半夏5;粳米5;大棗2;人参2;甘草2
肝と心は自律神経と精神神経系に深い関係があります。神経系のバランスが崩れると怒りっぽく、イライラしたり不眠症状が現れます。酸棗仁湯は心陰虚に使用しますが、血虚の症状が強ければ四物湯を合わせて使用します。また、天王補心丹は心陰虚の虚熱傾向で寝つきが悪い・夢をよく見る・動悸・息切れ・焦燥感・健忘・顔面紅潮・手足のほてり・口内炎・舌質紅などの症状に使用します。黄連解毒湯は実熱症状に使用しますが、気滞症状が強ければ四逆散を合わせて使用します。胃腸虚弱で精神的ストレスなどによる不眠症・神経症には加味温胆湯があります。イライラした神経の高ぶりを鎮めるには抑肝散があります。血虚で熱証を伴い、イライラして眠りが浅い更年期障害やカサカサ肌で痒みのあるアトピー性皮膚炎などに黄連解毒湯と四物湯を合わせた、温清飲があります。温清飲は名前の通り温めて冷やす薬です。では何を温めて何を冷やすのかと言うと、四物湯で血行を良くして体を温めホルモンバランスを改善し、黄連解毒湯で炎症部位の熱を冷まします。また黄連解毒湯による体の冷え過ぎを四物湯で防いでいます。漢方薬は意外と薬の副作用にも気を配っているのです。
◎四物湯:当帰3;芍薬3;川芎3;地黄3
◎酸棗仁湯:酸棗仁10;知母2;川芎2;茯苓2;甘草1
◎天王補心丸:地黄1.2;酸棗仁0.3;当帰0.3;天門冬0.3;麦門冬0.3;柏子仁0.3;遠志0.15;丹参0.15;桔梗0.15;党参0.15;茯苓0.3
◎加味帰脾湯1:人参3;白朮3;茯苓3;酸棗仁3;竜眼肉3;黄耆2;当帰2;遠志1;柴胡2.5;山梔子2;甘草1;木香1;大棗1;生姜1
◎加味温胆湯:半夏5;茯苓4;竹筎3;陳皮3;酸棗仁;3;甘草・大棗・枳実・遠志・玄参・人参・生地黄・各2;生姜1
◎四逆散:柴胡2;芍薬2;枳実2;甘草1
◎抑肝散:当帰3;釣藤鈎3;川芎3;白朮4;茯苓4;柴胡2;甘草1.5
◎黄連解毒湯:黄連1.5;黄芩3;黄柏1.5;山梔子2
◎三黄瀉心湯:大黄1;黄芩1;黄連1
◎大柴胡湯:柴胡6;半夏2.5;生姜1;黄芩3;芍薬3;大棗3;枳実2;大黄1
◎温清飲:当帰3;地黄3;芍薬3;川芎3;黄連1;黄芩1.5;山梔子1.5;黄柏1
気虚と血虚が合わさった状態を気血両虚と言います。気虚と血虚は同時に現れることが多いため気血両虚の代表的な処方薬に十全大補湯があります。処方構成は四君子湯から大棗と生姜を去り四物湯に桂皮・黄耆を加えた構成になっています。その他、桂枝湯に芍薬を増量した桂枝加芍薬湯は過敏性大腸炎の下腹部痛などのある人に処方される関連処方です。
気滞と瘀血が合わさり精神不安などの精神神経症状が現れることがあります。代表的な処方薬に加味逍遙散があります。処方構成は桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、四逆散からそれぞれ桃仁・桂皮・川芎・沢瀉・枳実を去り山梔子・薄荷・生姜を加えた構成になっています。言い換えれば血虚・瘀血・痰湿・気滞それぞれの要素を含んだ処方構成になっています。婦人科で処方される代表的な漢方薬の当帰芍薬散は四物湯と五苓散を合わせ、それぞれの地黄・桂皮・猪苓を去した処方構成で血虚・瘀血・痰湿に対応しています。桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、加味逍遙散の3処方は婦人科の三大漢方と言われます。
◎十全大補湯:人参2.5;黄耆2.5;白朮3;茯苓3;当帰3;芍薬3;地黄3;川芎3;桂皮3;甘草1
◎四君子湯:人参3;白朮3;茯苓4;甘草1;生姜0.5;大棗1
◎四物湯:当帰3;芍薬3;川芎3;地黄3
◎桂枝湯:桂皮3;芍薬3;大棗3;生姜1;甘草2
◎桂枝加芍薬湯:桂皮3;芍薬6;大棗3;生姜1;甘草2
◎加味逍遙散:当帰3;芍薬3;白朮3;茯苓3;柴胡3;牡丹皮2;山梔子2;甘草1.5;生姜1;薄荷葉1
◎桂枝茯苓丸:桂皮3;茯苓4;牡丹皮3;桃仁4;芍薬4
◎当帰芍薬散:当帰3;川芎3;芍薬4;茯苓4;白朮4;沢瀉4
◎四逆散:柴胡2;芍薬2;枳実2;甘草1
◎五苓散:沢瀉4;猪苓3;茯苓3;白朮3;桂皮2
脾は食物から取り出した後天の精を各臓器に送り届ける本となり、各臓器の先天の精と結びついて臓器の働きを維持します。腎は不要物の排泄だけでなく、両親から受け継いだ先天の精は人の成長や生命の維持に深く関わり、食物から変化した後天の精と合わさり補充され腎精として貯蔵されます。脾気虚の代表的な漢方薬として四君子湯があります。四君子湯に半夏・陳皮を加えて胃の機能改善を高めた六君子湯があります。冷えの強い陽虚には四君子湯の人参・白朮・甘草に乾姜を加えた人参湯が使われます。また、人参湯の人参・乾姜に山椒・膠飴を加えた大建中湯は腹部が冷えて痛み、腹部膨満感のある人に処方される関連処方です。病中病後などの体力の低下した虚弱者には四君子湯に更に元気をつける行気・補血の陳皮;当帰と気を持ち上げる升提作用の柴胡;升麻を加えた補中益気湯があります。
瘀血と痰湿には深い関係があり、血の停滞も津液の停滞もお互いの運行を阻害します。瘀血の代表的な漢方薬として桂枝茯苓丸があります。痰湿は腎と関係が深く化痰の代表的な漢方薬として二陳湯があります。また、利水で代表的な漢方薬として五苓散があります。五苓散は口渇して、吐き気、頭痛、めまい、むくみ、二日酔いなどに良く使用されます。痰湿が原因のめまい・ふらつきに苓桂朮甘湯があります。また、咽喉頭異常感、悪心、食欲不振などがあれば半夏厚朴湯があります。これら、脾・腎の強化と瘀血の改善はアンチエイジングの重要ポイントになります。
◎四君子湯:人参3;白朮3;茯苓4;甘草1;生姜0.5;大棗
◎六君子湯:人参2;白朮3;茯苓3;半夏3;陳皮2;大棗2;甘草1;生姜0.5
◎人参湯:人参3;甘草3;白朮3;乾姜2
◎大建中湯:山椒1;人参2;乾姜3;膠飴20
◎補中益気湯:人参3;白朮3;黄耆3;当帰3;陳皮2;大棗1.5;柴胡1;甘草1;生姜0.5;升麻0.5
◎桂枝茯苓丸:桂皮3;茯苓4;牡丹皮3;桃仁4;芍薬4
◎二陳湯:半夏5;茯苓3.5;陳皮3.5;生姜1;甘草1
◎五苓散:沢瀉4;猪苓3;茯苓3;白朮3;桂皮2
◎苓桂朮甘湯:茯苓4;白朮2;桂皮3;甘草2
◎半夏厚朴湯:半夏6;茯苓5;厚朴3;蘇葉2;生姜1
肺には津液を外向きに発散する宣散作用と内向きに下に降ろす粛降作用があります。津液は肺の働きで汗として外に発散し、内には腎に降ろされます。肺と腎は水分代謝と深く関係し、麻黄と桂皮は肺・腎に、また白朮は脾・腎と深い関係があります。麻黄+桂皮は強い発汗作用があり、桂皮は穏やかな発汗作用と腎陽を高める作用があります。麻黄+石膏は利尿作用があり、表証の水滞を改善します。麻黄湯の桂枝を石膏に変えると麻杏甘石湯になります。石膏は肺を潤し炎症を抑えます。また、利尿作用があり浮腫を改善する薏苡仁に変えると麻杏薏甘湯になり、実証の痰湿を改善します。麻黄+石膏に白朮が加わると更に効果が高まります。代表的な漢方薬として越婢湯に白朮を加えた越婢加朮湯があります。桂皮は白朮と合わせて利水作用を高め、水分代謝を改善します。代表的な漢方薬として五苓散と苓桂朮甘湯があります。五苓散は比較的水分量が多く口渇して浮腫のある急性のめまい・吐き気のあるものに使用します。苓桂朮甘湯は比較的水分量が少なく痩せ型でめまい・ふらつき・立ちくらみのあるものに使用します。桂枝湯の芍薬と桂枝を利水作用の白朮に変えて湿を取り発汗を調整する防已と黄耆を加えるとダイエットで有名な防已黄耆湯になります。
◎麻黄湯:麻黄湯:麻黄3;桂皮2;杏仁4;甘草1
◎麻杏甘石湯:麻杏甘石湯:麻黄4;杏仁4;甘草2;石膏10
◎麻杏薏甘湯:麻杏薏甘湯:麻黄4;杏仁3;薏苡仁10;甘草2
◎越婢加朮湯:麻黄4;石膏8;生姜1;大棗3;甘草1.5;白朮3
◎五苓散:五苓散:沢瀉4;猪苓3;茯苓3;白朮3;桂皮2
◎苓桂朮甘湯:茯苓4;白朮2;桂皮3;甘草2
◎桂枝湯:桂枝湯:桂皮3;芍薬3;大棗3;生姜1;甘草2
◎防已黄耆湯:防已4;黄耆5;白朮3;生姜1;大棗3;甘草1.5
<memo>
処方構成を見ると、それぞれの代表的な処方薬を組み合わせたり、増量することで新たな薬能が追加されることがわかります。分かりやすい処方に、カサカサ肌(乾燥)と炎症(熱)が合わさったアトピー性皮膚炎に使う温清飲があります。処方構成は「四物湯+黄連解毒湯」で皮膚を潤し、熱を冷ましてアトピー性皮膚炎の症状を改善します。温清飲は婦人科で熱証を伴う月経不順・更年期障害などによく処方される漢方薬です。
◎温清飲:当帰3;地黄3;芍薬3;川芎3;黄連1;黄芩1.5;山梔子1.5;黄柏1
◎四物湯:当帰3;芍薬3;川芎3;地黄3
◎黄連解毒湯:黄連1.5;黄芩3;黄柏1.5;山梔子2
先人たちは精・気・神を「人身の三宝」とよび、人間を作り上げている最も大切なものと考えました。精・気・神・が融合したものが人間であり、絶対に切り離すことは出来ません。三者は常にバランスを取り合って、どれか一つが不調になれば、他の二つにも影響が及びます。気血が良く流れれば、精神も安定して身体も生き生きとしてきます。また、精神が安定しなければ気血も正常に流れることが出来ず、健康状態を保つことも出来ません。このように、先人たちは三者のバランスがとれた状態を健康と考えたのです。しかし、現代においてこれらのバランスを取りながら生活することは容易ではありません。ストレスは肝を傷つけ、脾に影響し、気血の鬱滞はすべての臓器に悪影響を与えます。また、不規則な睡眠は心に影響し、精神不安を招きます。私達は何時も健康でいられるとは限りません。重度の体調不良はもちろん医療を受けるでしょうが、軽度の体調不良は自分で手当をすることも考えられます。軽度の疾病治療、健康維持の目的行為をセルフメディケーション、セルフケアと言います。
先人は人の健康状態を精・気・神の「人身の三宝」のバランスで考えました。現代医学では生体外の環境変化に対して体温や血圧を一定範囲内に調整するシステムをホメオスタシスと言います。内分泌系・免疫系・神経系の三者のバランスが整った状態を健康と考えます。しかし何らかの影響で生体外の環境が変化すると人はストレスと感じ環境変化に対応するために交感神経から神経伝達物質のノルアドレナリンを放出して免疫系を抑制します。また、視床下部からの副腎皮質刺激ホルモン放出因子が下垂体前葉を刺激し、副腎皮質刺激ホルモンを放出します。副腎皮質刺激ホルモンは内分泌系の副腎皮質から放出されるホルモンのグルココルチコイドを介して免疫系を抑制します。このように、ストレスは神経系あるいは内分泌系を介して免疫系を抑制しています。具体的にはストレスにより交感神経が優位になると肝血流量が減少して脾の影響します。この状態が長く続くとすべての臓器に影響を与えます。これらのバランスを調える漢方薬や食治療法は免疫システムから見た免疫賦活療法と観ることができます。
病は気からとは、病は気の乱れから起こるということです。気が滞ったり不足すると免疫系が失調して病気になります。気の乱れやすい傾向は体質により異なります。漢方や薬膳は気の乱れの原因を取り除くことで病気を予防することができます。
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香りは思考のフィルターを通さずに精神に直接作用します。陽性の強いタイム油は対外的に自信をつけ、陰性のローズ油は内的安心感を与えます。香りをスイッチする事で常に変化する精神をコントロール出来る様になります。人参養栄湯には嗅球神経の機能不全を緩和し学習機能を改善するという研究報告があります。
身体はストレスを受けると肝に熱が貯まり、肝鬱を生じ脾を傷つけます。この状態が長引くと鬱病に至ることがあります。肝の熱を冷ます重要な生薬が柴胡になります。傷ついた脾を大棗・生姜・甘草・人参・茯苓・白朮(四君子湯)が守ります。気滞を発散させる基本処方には、四逆散があります。気鬱で傷ついた脾を手当する四君子湯を加えた処方薬には、加味帰脾湯があります。比較的体力がある人でイライラなどの精神症状には、柴胡加竜骨牡蛎湯があります。瘀血があり精神不安のある婦人には、加味逍遙散があります。虚弱体質で神経の高ぶりのある神経症には、抑肝散があります。
◎四逆散:柴胡2;芍薬2;枳実2;甘草1
◎加味帰脾湯:人参3;白朮3;茯苓3;酸棗仁3;竜眼肉3;黄耆2;当帰2;遠志1;柴胡2.5:山梔子2;甘草1;木香1;大棗1;生姜1
◎柴胡加竜骨牡蛎湯:柴胡5;半夏4;茯苓3;桂皮3;大棗2.5;人参2.5;竜骨2.5;牡蛎2.5;生姜0.5;黄芩2.5
◎加味逍遙散:当帰3;芍薬3;白朮3;茯苓3;柴胡3;牡丹皮2;山梔子2;甘草1.5;生姜1;薄荷葉1
◎抑肝散:当帰3;釣藤鈎3;川芎3;白朮4;茯苓4;柴胡2;甘草1.5
アンチエイジングには腎の機能を改善する事が重要になります。腎機能を改善する代表的な漢方薬に六味丸があります。アンチエイジングには腎機能の改善と合わせて脾と瘀血の改善が重要になります。脾の改善には脾気虚の代表的な処方で四君子湯を含む補中益気湯があります。瘀血の改善には代表的な漢方薬で桂枝茯苓丸があります。瘀血に加えて情緒不安があれば加味逍遥散があります。冷えがあり浮腫、貧血傾向があれば当帰芍薬散があります。
◎六味丸:地黄5;山茱萸3;山薬3;沢瀉3;牡丹皮;2.5
◎補中益気湯:人参3;白朮3;黄耆3;当帰3;陳皮2;大棗1.5;柴胡1;甘草1;生姜0.5;升麻0.5
◎桂枝茯苓丸:桂皮3;茯苓4;牡丹皮3;桃仁4;芍薬4
◎加味逍遙散:当帰3;芍薬3;白朮3;茯苓3;柴胡3;牡丹皮2;山梔子2;甘草1.5;生姜1;薄荷葉1
◎当帰芍薬散:当帰3;川芎3;芍薬4;茯苓4;白朮4;沢瀉4
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芍薬は5〜6月にかけて綺麗な白や赤い花を咲かせ、血剤として使用されることが多い生薬です。「平成薬証論」で、渡辺武先生は芍薬について、腸内の水滞を取り去る利水作用を強調されています。腸内の水滞が解消されれば腸内環境も好転し、瘀血の原因も改善されるはずです。
漢方薬にはアルツハイマー・認知症に効果がある処方が報告されています。これらの漢方薬は記憶や学習に重要な役割を果たしているコリン作動系に作用することが解ってきました。コリン作動系に作用する重要な役割を果たしているのが「遠志」です。遠志を含む漢方薬には、精神・神経症に使われる代表的な漢方薬に加味温胆湯があります。不眠に精神不安を伴えば、加味帰脾湯があります。食慾不振で体力の低下があれば、人参養栄湯があります。これらの漢方薬に共通する生薬は遠志;人参;茯苓;甘草の4つの生薬構成になっています。また、構成生薬の中で神経細胞の障害を改善する作用として遠志・人参・黄耆が重要な役割をはたしている可能性があります。
◎加味温胆湯:半夏3.5;茯苓3;陳皮2;竹茹2;生姜1;枳実1;甘草1;遠志2;玄参2;人参2;地黄2;酸棗仁1;大棗2
◎加味帰脾湯:人参3;白朮3;茯苓3;酸棗仁3;竜眼肉3;黄耆2;当帰2;遠志1;柴胡2.5:山梔子2;甘草1;木香1;大棗1;生姜1
◎人参養栄湯:人参3;当帰4;芍薬2;地黄4;白朮4;茯苓4;桂皮2;黄耆1.5;陳皮2;遠志1;五味子1;甘草1
セルフメディケーションとは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な心身の不調は自分で手当てすること」と、WHO(世界保健機関)は定義しています。「人身の三宝」の一つである精神は健康を支える土台であり、現実世界と身体が上手く調和する様に機能しています。神の基礎物質である精が充実すれば神も充足して健全な肉体を支える基礎となります。その上で食事と排泄、運動(活動)と睡眠のバランスが重要になります。これらは生活の乱れを改善し、体質に合った薬膳をとることで、人が本来持っている自然治癒力を高めて健康状態を維持することが出来るのです。また、医療を受けている場合も治療効果を高める手助けとなります。セルフメディケーションと合わせて重要な事にセルフケアがあります。薬膳もそのうちの一つであり、アロマ・マッサージ・ダンス・太極拳など自分に合った方法を複数を組み合わせて実践することが効果的です。また、年齢に応じた手当も心がけるべきです。小児は成長期であり後天の本である脾を補い、青年期は最も気力・体力が充実する時期であり規則正しい生活に心がけるべきです。中年期は体力が衰える反面、仕事や家事でのストレスが増加する時期であり肝の不調が起こりやすくなります。老年期は老化に伴い精力が衰える時期であり腎を補うことが大切になります。人間はこの三宝のバランスに気をつけて食べて、出して、眠って、運動をしていれば大抵の病気は良くなります。もし、不眠や便秘があれば始めに治療をします。不眠や便秘が改善し、その後も体質にあった食事と運動を心掛ければ、自然と健康と精神のバランスも整って来ます。
不眠には体質に合わせた治療が必要です。陰虚・肝血不足による不眠の代表的な漢方薬で酸棗仁湯があります。実熱によるイライラ・睡眠障害の代表的な漢方薬で黄連解毒湯があります。気血両虚による精神不安・不眠の代表的な漢方薬で四君子湯ベースの加味帰脾湯があります。肝気鬱結によるイライラ・不眠の代表的な漢方薬で加味逍遙散があります。加味帰脾湯と加味逍遥散には脾気不足を補う四君子湯が含まれています。睡眠には昼間の活動と適度な疲労が重要になります。毎日の運動による心地よい疲労が理想の睡眠へと導くのです。
◎酸棗仁湯:酸棗仁10;知母2;川芎2;茯苓2;甘草1
◎黄連解毒湯:黄連1.5;黄芩3;黄柏1.5;山梔子2
◎加味帰脾湯1:人参3;白朮3;茯苓3;酸棗仁3;竜眼肉3;黄耆2;当帰2;遠志1;柴胡2.5;山梔子2;甘草1;木香1;大棗1;生姜1
◎加味逍遙散:当帰3;芍薬3;白朮3;茯苓3;柴胡3;牡丹皮2;山梔子2;甘草1.5;生姜1;薄荷葉1
便秘には体質に合わせた治療が必要です。基本的に体力のある実タイプと、体力のない虚タイプで使い分ける事になります。便秘薬の基本骨格は大黄・芒硝・甘草の調胃承気湯になります。承気湯類は精神不安を伴う便秘症に効果があり、大黄で腸の蠕動運動を促進して芒硝で便を柔らかくします。甘草は大黄の瀉下作用を緩和し水分の分泌を促進して大黄の働きを助けます。また、大黄には瀉下作用の他に、消化管運動の改善による抗精神作用が認められています。理気剤の枳実と厚朴の組み合わせで小承気湯と大承気湯があります。大承気湯は腹満ののある便秘に使用し、これより軽微な便秘には小承気湯を使います。桂皮・桃仁との組み合わせで桃核承気湯と桃仁・牡丹皮・冬瓜子の組み合わせで大黄牡丹皮湯があります。瘀血がありイライラして便秘するものには桃核承気湯を使用し、瘀血で下腹部痛のある便秘には大黄牡丹皮湯を使います。これらは、主に実タイプが対象になります。高齢者の便秘には麻子仁丸がよく使われます。虚タイプの便秘には桂枝加芍薬大黄湯と膠飴が入った小建中湯があります。桂枝加芍薬大黄湯は腹満・腹痛のある便秘に使用し、小建中湯は腹痛・便秘に効果があり、便秘と下痢を繰り返す過敏性腸症候群にも使用されます。また、実タイプで精神不安を伴い高血圧傾向の人には三黄瀉心湯があります。最も簡単な処方では甘草の水分の分泌促進作用で大黄の働きを助ける大黄甘草湯は体質に関係なく弛緩性の便秘に使用されますが漫然と使用するのは良くありません。便秘にはバランスの取れた食事と正しい生活習慣が重要になります。毎日の食事内容を見なおせば理想的な腸内環境が整えられます。
◎調胃承気湯:大黄2;芒硝1;甘草1
◎小承気湯:大黄2;枳実2;厚朴2
◎大承気湯:厚朴5;枳実3;芒硝3;大黄2
◎桃核承気湯:桃仁5;桂皮4;大黄3;芒硝2;甘草1.5
◎大黄牡丹皮湯:大黄1;牡丹皮1;桃仁2;芒硝3.6;冬瓜子2
◎麻子仁丸:麻子仁4−5;芍薬2;枳実2;厚朴2;大黄3.5;杏仁2
◎桂枝加芍薬大黄湯:桂皮3;芍薬4;大棗3;生姜1;甘草2;大黄1
◎小建中湯:桂皮3;生姜1;大棗3;芍薬6;甘草2;膠飴20
◎三黄瀉心湯:大黄1;黄芩1;黄連1
◎大黄甘草湯:大黄4;甘草1
<memo>
漢方の便秘薬として大黄が有名ですが、大黄の有効成分であるセンノシドはそのままでは作用しないのです。センノシドを腸内細菌がレインアンスロンに分解することにより作用を発揮します。センノシドを分解する腸内細菌が少なかったり、抗生物質を長期服用している人は大黄の下剤としての効き目が悪くなります。
中医学、漢方理論には多くの矛盾点や相違点が存在します。私たちが薬膳で中医学、漢方理論を利用する場合、矛盾があるから使えないわけではなく有用な理論は積極的に利用すべきです。新たな研究成果として健康効果が明らかにされたものも数多くあります。